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東京高等裁判所 昭和30年(う)858号 判決

控訴人 被告人 中村亀之助

弁護人 滝川三郎

検察官 入戸野行雄

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣旨は末尾添附の弁護人滝川三郎の差し出した控訴趣意書記載のとおりである。

弁護人の論旨第二点について

東京地方裁判所執行吏西川筆義作成に係る債権者光陽石油株式会社債務者日本通産株式会社間の昭和二十六年十月十五日附有体動産仮差押調書謄本二通の各記載、検察事務官に対する西川筆義の供述調書の記載によれば東京地方裁判所執行吏西川筆義は債権者光陽石油株式会社債務者日本通産株式会社間の東京地方裁判所昭和二十六年(ヨ)第四二〇四号仮差押決定に基き原判決日時場所において原判決添附別表(一)(二)掲記の有体動産につき夫々仮差押をなし、公示書を施して差押物であることを表示したものであること明らかであるところ、論旨は刑法第九十六条に所謂封印とはある特定物の支配を一時禁止したことを知らしめるため、これを除去するにあらざれば支配をなし得ない様式においてその外包に附着せしめた物料をいい、差押の標示とは単に同様の目的をもつて特定物自体に附着せしめた表識をいうのである。今これを本件有体動産仮差押についてみるのに封印を施した形跡なく、ただ公示を貼布したものの差押を前示の如く明白にすべき方法においてなされた事実を確認するに足りないから差押はその効力を生じないので差押物件は適法に執行吏の占有に帰したものと認めることはできない。従つてこれを脱漏したり他に搬出し所在不明に陥れたようなことがあつても固より公務員の施した差押の標示を無効にならしめた所為に該当しない(大審院大正十五年(れ)第五三号同年十一月二十六日判決参照)と主張するのであるが、被告人の検察事務官に対する供述調書中の記載によれば本件仮差押標示の形式は大島工場の場合は工場内の事務所に物品を取りまとめ、その事務所の壁に仮差押の旨を書いた紙に差押財産目録をつけて貼つてあり、また神田事務所における仮差押の場合はその事務所の戸棚の内に物品を取りまとめて容れ、戸棚の内側の壁に前同様の書式の紙を貼り夫々標示したものであること明らかであるから原判示西川執行吏の本件仮差押公示書の貼布は仮差押を明白にすべき方法においてなされたものであることを確認するに足り民事訴訟法第五百六十六条第二項所定の要件をみたしているものと認めることができるからこれにより仮差押の効力を生じたものと認めるに十分である。元来民事訴訟法第五百六十六条第二項所定の封印票あるいは標示票等は各差押物件ごとになされることが望しいことは固よりであるが、本件におけるが如く仮差押の物件がいずれも取りまとめられて一ケ所に置かれ、公示書が当該物件に近接してしかも見やすい箇所に貼布されているような場合には第三者にも差押の事実は容易に判明するから第三者をして不測の損害を蒙らしめることもなく、一般取引の安全の保護にも欠けるところはないから本件の如き公示書の貼布による方法もまた仮差押の事実を明白にするに足る方法として仮差押の効力を生じさせるものと解するのが相当である。論旨の引用する大審院判例(論旨に大正十五年(れ)第五三号と記載しているのは同年(れ)第九五三号の誤記と認める)は本件とは事実関係を異にするものであり、本件に引用するのは適当ではない。従つて本件各仮差押の公示書の貼布をもつていずれも仮差押の事実を明白にする方法をもつてなされたものではないから仮差押の効力が発生しておらないとの前提の下に原審の判断を非難する論旨は採用の限りでない。それゆえ論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 中村光三 判事 脇田忠 判事 鈴木重光)

弁護人滝川三郎の控訴趣意

第二点正しい標示を欠いた仮差押は無効であつて封印破棄罪の対象とならない。

一、刑法第九十六条に所謂封印と云うのは、或特定物の支配を一時禁止したことを知らしめるため、之を除去するにあらざれば支配を為し得ない様式に於て其の外包に附着せしめた物料を謂ひ、差押の標記とは単に同様の目的を以つて、特定物自体に附着せしめた表識を謂うのである。

二、今これを本件有体動産仮差押に就いて見るに封印を施した形跡なく、只公示を貼付したものの差押を前示のように明白にすべき方法に於て為された事実を確認するに足らない差押は其効力を生じないので、差押物件は適法に執行吏の占有に帰したものと認めることが出来ない。従つてこれを脱漏したり他に搬出所在不明に陥れたようなことがあつても固より公務員の施した差押の標示を無効ならしめた所為に該当しないのである(大審院大正十五年(れ)第五三号同年十一月二十六日判決)

(その他の控訴趣意は省略する。)

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